《第1話》 【リサ戦】《第1話》 【リサ戦】英会話スクールに通っていた。あの“駅前留学”というところである。 若い頃から、ずっと、外国に行きたいとは考えていた。外国にあこがれたというよりは、日本人がきらいだったから。 なぜ、日本人がきらいだったかは、別にして、日本がいやだから、外国へ行こうと考えるのは、まずいと思っていた。 転職と同じことで、今がいやだから次へ行こうという考え方は、成功しないと思っていた。 で、仕事が建設関係ということもあり、最初は、海外プロジェクトのお手伝いという形で、じわじわ、海外進出を考えた。それには、英会話力もあったほうがいいだろう。 俺の英語力は、中学英語程度だから、これを高めなくては、である。 その“駅前留学”は、全員外国人教師で、やはり、アメリカ人が一番多かったようだ。 イギリス、カナダ、オーストラリア・・・いろんな国の人がいた。 年齢は、初級コースだったこともあり、20代前半から40代前半くらい。自分の感覚のせいか、どうしても、アメリカ人に対する意識が一番強かった感じがする。 レッスンは日本人3人と外国人教師1人の“グループレッスン”と、日本人1人と外国人教師1人の“プライベートレッスン”を、選択できた。 レッスン中は、日本語使用禁止。最初に自己紹介、趣味の話など世間話から始まる。すべて、会話は英語のみ。 プライベートレッスンを選択した日だった。教師はリサというアメリカ人女性。 少し太った女だった。ブロンドヘアーだったかシルバーだったか、そんなかんじだった。 とつぜん聞いてきた。 「なぜ、日本人は、箸を使うのか?」 外国人は、よく「なぜ?なんで?」と聞いてくることがある。 異国の異文化を理解しようとするためらしい。日本人の女の子も「なんで?」とよく聞く子がいる。男の子を理解しようとするため・・・か、甘えるためのように見える。 最初、そんなことだと思っていた。軽く答えようと思ったが、日本人が箸を使う理由が特に考えつかない。 「特に理由はない。昔から使っているからだ。」と答えた。 リサは急に興奮気味に、早口の英語で話し出した。俺の中学英語程度の語学力では、全部は聞き取れない。 解る単語だけ、並べてみると、どうやら、「日本人が箸を使うのは、おかしい・・・。日本は先進国の仲間入りをしたのだから」 と言っているらしい。 なんで?。 「いいじゃない。先進国のなかで、日本だけが東洋なんだから。箸は東洋人の食事の時の道具なんだ。」 すると、リサは、 「アメリカやヨーロッパではナイフとフォークを使っている。日本は遅れている。」 と、言った。 なんだと?てめー。 アメリカ人はバカでもチョンでも、強気に出てくると聞いていたが、こいつは、日本人を見下したくて、わざと言ってるな。 アメリカ人が、日本人に対して強気で言えば、日本人はシュンとなってアメリカ人の言うことを聞く。 ということを、本国か日本で覚えたな。そうはいくか!!! 「箸は普通、木でできている。それは自然のものだ。だから、口の中に入れても安全だ。 それは、自然な行為だ。ナイフとフォークは鉄でできている。鉄を口の中に入れて、う まい味がするのか?」 「我々は鉄は食べない」 あたりまえだよ。 「日本では、フォークやスプーンを使うのは、3才以下の子供だ。日本人は、良い手(器用) を持っている。だから、箸を使う。魚を食べる時に便利なんだ。アメリカ人は頭と手が悪いから、ナイフとフォークを使うんだろう。」 リサは黙って、俺をにらんでいる。 少し、言いすぎたかなと思い、譲歩しようと思った。 だいたい、俺だって、レストランで食事するときは、ナイフとフォークを使っている。 特に、女性と食事するときは、お皿から肉がずれ落ちないように、細心の注意を払っている。 「確かに、肉を食べるときは、ナイフとフォークは便利だけどね。」 すると、リサは 「なぜ、日本人は肉を食べないのか?」 そうきたか。こいつ、負けそうになったんで、そんなこと言ってごまかして。 そうはいくかよ。 「日本人が、あまり 肉を食べない理由は、あんたみたいなブタになりたくないからだよ。」 あっ、まずい。 おんなの人に体のこと言っちゃまずいよね。 しかも、太った白人女性に“白ブタ”というのは、中指を突き立てるのと同じくらい、やってはいけないことなのに。 まっ、いいか。もう、言っちゃったんだもん。 リサは、ポパイのガールフレンドのオリーブが、ブルータスを怒るときみたいに、ひじを肩の高さまで上げて、「フッ!」と怒った。 俺は、空手の構えをして、「来い!」と、指でおいで、おいでをした。 まさか、女相手に、本気でけんかするつもりはないし、実は空手もできないんだけど、リサはあっさり降参した。 「O.K.わかった。」 ちょっと、ふてくされているようだった。 とどめを刺してやる。 「日本人は、2000年も前から、箸を使っている。それが、日本の文化だ。アメリカの歴史は、たった200年だろう。おまえがやったことは、10才の子供が100才の大人を攻撃しているようなものだ。・・・日本人は、あやまるとき、頭を下げる。日本人の俺に、頭を下げてあやまれ。できなければ、明日、アメリカに帰れ。」 リサは、反省とくやしさが入りまじった表情で、頭を下げた。 「I am sorry」 勝った。 アメリカ人に勝ったぞ。 じいちゃん、かたきを取ったぞ。 だが、このリサとの戦いが、その英会話スクールにいた10人以上のアメリカ人全員を敵にまわすことになったのである。 ニューヨークのテロ事件後でも解るとおり、アメリカ人の結束は固い。 特に、女性を攻撃して、アメリカを批判している俺は、アメリカ人が負けてはならない標的になったわけです。 ただ、おわかりのとおり、最初にしかけてきたのは、アメリカ人なわけで。 白色人種が有色人種に持つ優越意識や、経済大国になった日本に対する反感も、あったのだろうと思う。 でも、50才以上の日本人に多い外人コンプレックスが、俺にはない。 戦後、たしかに、アメリカにはお世話になっているけど、民主主義の独立国同士の関係で、尊敬や感謝の気持ちはあっても、昔の日本人のような主従関係はおかしいと思う。 言うべきことは言ってやろー。 言いたいことも言ってやろー。 後でわかることだが、それでいいのだ。 それがいいのだ。 議論なんて、むずかしくてできないけど、口げんかならできそうだ。 おもいっきりやろー。 そんなわけで、これが“デビルモンスターの聖戦”のイントロダクションでした。 たいしたことねーなと思うもよし。 たいしたことあっちゃ困るんだよなもよし。 俺、フセインじゃないんだから。
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